コヘレトの言葉 7:7-14 ; テサロニケの信徒への手紙一 5:16-22
コヘレトの言葉7:7−14では一見まとまりのない言葉が並んでいますが、ここ では人間の知恵や理性、判断力について検討がなされ、その限界、あるいは脆さと共 に、知恵にしたがって生きる大切さも語ります。知恵や理性について、どれほどの信 頼を寄せていいものか、わたしたちにもその見解が求められます。 「知恵は暴力によって愚かになり、賄賂によって心を売り渡す。・・・怒りに息をは ずませるな。怒りは愚かなものの胸に宿るもの。」知恵や理性はいかなるときにも正 しい判断を導き、わたしたちが正しい道を歩むための最も信頼できる働きと言えるか と問うとき、これをまったく無力化し無能にする力があることを指摘しています。権 力、暴力、そして自分の野心と欲望、わたしたちの外と内からの働きによって意外な 脆さがあるというのです。その例をあげるまでもなく多くの事例に思い当たります。 暴力的・悪魔的な権力に魂を売り渡す知識人、内なる感情に流されて愚かなことに没 頭して止められない弱い人間の心、知恵や理性はそのような危うさを持っています。 しかし、また知恵は大切です。「知恵の影は銀の影。・・・知恵を持つことは金を 持つことに勝る。・・・知恵はその持ち主に命を与える」と、コヘレトは知恵の効力 を認めます。そして、「神が造られたものを見るがよい。神が曲げられたものを誰が 真直ぐにすることができようか。順境には楽しめ。逆境には考えよ。この両者は隣り 合うものとして神が造られた」と、きわめて現実的に知恵にしたがって生きる生き方 として、現実に適応して生きることを勧めるのです。 ここには科学万能の時代に生きているわたしたちが気づくべき知恵が語られている ことは確かです。知恵や理性の強さや効用と弱さと愚かさを知ることは大切です。し かし、その強みと弱みの両者を知ったとしても、人間に与えられている理性や知恵を 本当に活性化し、その持ち主に命を与えることには至らないのではないかと思わされ ます。そのためにはもっと深い知恵にいたらなければなりません。十字架の言葉によ って導かれる生き方として、「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての ことに感謝しなさい。」と教えられています。これこそ、キリスト・イエスに結ばれ て生きる者の知恵の知恵、終わりを見通す判断力の鍵です。
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